インドでスズキが圧倒的シェアを維持する理由とは?

インドでスズキが圧倒的シェアを維持する理由とは?

インド市場においてスズキが半数以上のシェアを長年維持している背景には、長期的な戦略と現地ニーズに合致した製品展開がある。

日本で「トヨタ車が多い」と感じるのは自然なことだ。2023年、日本国内で販売された乗用車のうち、およそ3台に1台はトヨタ車であった。トヨタの市場シェアは約31.5%で、業界トップとしての地位を確保している。

しかし、世界にはそのトヨタを遥かに上回るシェアを誇るメーカーが存在する。それが、インドでのスズキである。

世界第5位の市場で半数以上のシェア

スズキはインドにおいて「マルチ・スズキ」という合弁会社を通じて自動車販売を展開している。2017年度には約164万台を販売し、乗用車市場のシェアは50%。2018年度には172万台以上に達し、シェアは51.2%にまで上昇した。2019年も1年間のうち4月から12月の間に106万台以上を売り上げており、安定してシェア50%を超えている状況だ。

この数字は、同時期に日本でトヨタが販売する台数の約10倍にも相当し、スズキがインド市場でいかに圧倒的な存在感を示しているかを物語っている。

強力なライバルを抑える独走体制

2020年2月のデータを見ると、スズキは13万台以上を販売し、2位のヒュンダイ(現代自動車)は4万台ほど。3倍以上の差がついており、まさに“独走”状態である。他の日本勢では、トヨタが1万台、ホンダが7千台、日産に至っては1千台と、スズキに大きく水をあけられている。

これは東南アジアのように“日本車全体”が人気を集めているわけではなく、スズキ単独が際立っている珍しい市場構造だ。

インド進出の早さが成功の鍵

スズキがインド市場への参入を決めたのは1982年。国営企業「マルチ・ウドヨグ」と提携し、後に「マルチ・スズキ」として民営化された。この提携によって、1983年にはスズキの軽自動車「アルト」をベースに開発された「マルチ800」が現地生産される。

このマルチ800は、価格の安さ、燃費性能、耐久性の高さなどから大ヒットとなり、2014年までに累計で291万台が生産された。現地メーカーの車よりも優れた性能を誇り、インド国民に“信頼できるクルマ”という印象を与えることに成功した。

現地ニーズに応える柔軟性

マルチ・スズキの成功は、単に安価な車を提供しただけではない。インド特有の気候、道路事情、家族構成などを綿密に分析し、それに合った車種を展開した点も大きい。さらに販売後のサービス体制も整備されており、地方でも安心して乗れる車という印象が定着している。

結果として、インド国内でのブランド信頼度が非常に高くなり、新車購入の際にスズキを選ぶ消費者が後を絶たない。

結論:先見性と地道な努力が築いたシェア

当時のスズキ社長・鈴木修氏は、「先進国への進出を希望していたが、小型車を求めていたのはインドだけだった」と回顧している。だが、その決断が現在の成功に繋がったのは間違いない。

スズキが築いたインド市場での地位は、早期参入と長年にわたる現地化努力、そしてユーザーの信頼に基づいており、他のメーカーが簡単に真似できるものではないだろう。